「タクシー運転手って、休みづらそうだよね」──これ、僕がタクシー会社に勤めていたころ、よく言われた言葉です。
確かに、夜勤・隔日勤務・歩合制という特殊な勤務形態から、〈有給なんて夢のまた夢〉というイメージを持たれがちです。
でも、実際に現場でハンドルを握っていた僕からすると、それはもう時代遅れな話。
今のタクシー業界では、有給は「ちゃんとあるし、ちゃんと取れる」ものになりつつあります。
この記事では、タクシー会社における有給休暇の実情と、その“取りやすさ”の理由を、現場経験者の視点からリアルにお伝えします。
この記事を読んだあと、きっとあなたの「働きやすい職場」への見方が変わるはずです。
タクシー運転手の有給休暇は法律で保障されている
まず最初に押さえておきたいのは、「タクシー運転手にも有給休暇はきちんとある」という事実です。
これは会社の“優しさ”でもなければ、“暗黙の了解”でもありません。れっきとした法律──つまり、労働基準法で保障された労働者の権利です。
具体的には、雇用開始から6か月間継続勤務し、その期間の出勤率が8割以上であれば、年10日の年次有給休暇が発生します。
その後は勤続年数に応じて付与日数も増えていき、例えば3年半以上働けば年14日、6年半以上で年20日と、一般企業と同様の制度が整備されています。
そして2019年には法律が改正され、年10日以上の有給が付与される労働者については「年5日以上の有給取得が義務化」されました。
この法改正によって、タクシー会社側も従業員に有給を“取らせないといけない”状況になったのです。
つまり、有給を取ることに対して遠慮したり、後ろめたさを感じる必要はまったくありません。
むしろ、「取りたいときにちゃんと取れるか?」という環境こそが、その会社の“働きやすさ”を測るバロメーターなのかもしれません。
タクシー運転手が有給を“取りやすい”理由3つ
法律で保障されているとはいえ、実際に「取りやすいかどうか」は職場によって違いますよね。
ではなぜ、タクシー会社では有給休暇が比較的“取りやすい”と言われるのでしょうか?
その背景には、タクシーという仕事ならではの構造があります。ここでは、大きく3つの理由を紹介します。
1. 個人プレーだから、休んでも迷惑がかからない
タクシー運転手の多くは“一人で完結する仕事”をしています。
つまり、シフトに入っていない日は他の人がカバーする必要がない。
一般的なオフィスワークのように「代わりに誰かがフォローしなきゃ」という重圧が少ないんです。
僕自身も、休むことへの罪悪感を感じたことはあまりありませんでした。
もちろん「稼ぎたいから出る」人もいますが、「休みたいから休む」ことに対して、周囲が冷たい目を向けるような文化はなかった。
これは、タクシー業界の“自由な空気感”とも言えるかもしれません。
2. 隔日勤務と明け休みの組み合わせで連休も可
タクシー業界には「隔日勤務」という独特な勤務形態があります。
これは「1勤務=2日分働いて、翌日は明け休み」というサイクルで、月に12勤務ほどというパターンが一般的です。
この隔日勤務に有給を組み合わせると、驚くほど自由な連休が作れます。
たとえば、勤務後の「明け休み+有給+公休」の3つをつなげれば、平日3〜4連休を作ることも可能です。
実際、僕はこの方法で小旅行や実家への帰省をよくしていました。
3. 実際の取得率も高い。大手では9割超えも
数字で見ると、その「取りやすさ」は明確です。
たとえば大阪の大手タクシー会社「日本交通」では、有給取得率が92%という高水準。
他にも全国の大手タクシー企業では、有給取得を推奨・管理する仕組みが整っています。
つまり、「制度はあるけど、実際は取れない」という業界ではありません。
むしろ、会社によっては「取りなさい」と声をかけられることもあるほど、有給が“使いやすい”空気が出来つつあるのです。
タクシー運転手が有給取得で気をつけるべき給与面の注意点
「有給が取りやすい」という話をすると、よく聞かれるのが「でも、有給中の給料ってどうなるの?」という疑問です。
これはタクシー業界ならではの給与体系が関係してきます。
多くのタクシー会社では、基本給に加えて歩合給(売上に応じた報酬)が大きな割合を占めています。
つまり、「走ったぶんだけ稼げる」けれど、「休んだぶんだけ収入が減る」という側面もあるのです。
では有給を取った日はどうなるか。実際には「過去3ヶ月間の平均日給」をもとに支給されるケースが多いです。
これは法律で定められている「平均賃金」による支払い方式で、有給取得日も“働いたことにして”計算されるわけです。
ただし注意点があります。それは、「直近3ヶ月の売上が低いと、有給中の給与も少なくなる」ということ。
たとえば閑散期や体調不良で乗務が少なかった時期のあとに有給を取ると、支給額が少なくなる可能性もあります。
そのため、ベテランの運転手たちは「有給は繁忙期のあとに取るとお得」という感覚を持っていたりします。
これは決して“セコいテクニック”ではなく、自分の働き方をきちんと把握している証拠。
「いつ休むか」「どのタイミングで取るか」も、タクシー運転手の“働き方スキル”のひとつなんです。
タクシー運転手にとっての“働きやすさ”は有給の取りやすさに表れる
僕がタクシー業界にいたとき、正直「この仕事、しんどいな」と思う瞬間は何度もありました。
でも同時に、「休みたい」と思ったときにちゃんと休める環境があったからこそ、続けてこられたのも事実です。
今どき「休めない仕事」なんて時代遅れです。
そして、タクシー業界はその点で、実はかなり“進んでいる”職場でもあるんです。
もちろん、会社ごとに違いはあります。人間関係や管理体制が影響することもあります。
でも、「有給休暇をちゃんと取れるかどうか」は、その会社が“人をどう扱っているか”を見抜くひとつの物差しです。
タクシー運転手という仕事は、ひとりで街を走りながらも、会社に守られて働く仕事でもあります。
だからこそ、「しっかり休む」ことは「しっかり働く」ことと同じくらい、大切なことなんです。
この記事を読んで、「タクシー運転手=ブラック」というイメージが少しでも和らげばうれしいです。
そして、もしこれからタクシー業界に飛び込もうとしている誰かの背中を、ほんの少しでも押せたなら──それ以上に嬉しいことはありません。
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